助産師が不妊治療を経験してわかったこと

子宮内膜症のため手術→不妊治療開始→体外受精で妊娠・出産した助産師の記録

マタニティマーク問題について考える

マタニティマーク使用を控える妊婦さん

 今日はブログテーマからは少しそれる内容ですが、マタニティマークに関して気になる報道があったので記事にしたいと思います。

 

 先日、新聞で周囲からの反感を買うことを恐れてマタニティマークの使用を控える妊婦さんがいることを報じていました。

 この報道以前に、嫌がらせを受ける可能性があるからマークをつけないという声を直接聞いたり、新聞で『妊婦の娘が嫌がらせを受けそうだからマークをつけないと言っているが、こんな社会でよいのか』という主旨の投稿を読んだりしたことがあります。

 マタニティマークは、妊婦さんが交通機関等を使用する時に身につけ、周囲が妊婦さんへの配慮を示しやすくするもので、このマークをとおし、妊産婦に優しい環境づくりの推進が目的とされています(マタニティマークについて |厚生労働省)。

 厚生労働省がマークを定めてから、今年は10年目を迎えました。

 

マークの必要性とつけない理由

  私自身は医療従事者の立場から、マタニティマークをぜひ妊婦さんにつけていただきたいと考えています。

 お腹の膨らみが外見からわかる妊娠中期以降の妊婦さんは周囲の方も認識しやすいと思うのですが、妊娠初期は外見上では妊娠しているかどうかわかりません。

 しかし、妊娠初期はつわりがあったり、乗り物酔いしやすかったり、身体的になかなか負担が大きい時期です。また、突然の体調不良時や事故や災害に遭遇した際に、マークをとおして妊婦さんであることがすぐにわかれば、救急処置の手だてがとりやすいでしょう。

 こういった理由から、妊婦さんとお腹の赤ちゃんを守るためにぜひマークをつけてほしいと思うのですが、かえって危険な目に遭うためつけたくないと考える妊婦さんはいらっしゃるようです。

 また、席を譲るように圧力をかけているみたいでつけにくいと感じる方や、優先席に座る時にはマークがみえるようにし、やむを得ず立っている時には座っている方に気を遣わせないようにマークをバッグの内側にするといった配慮をされる方もいます。

 一方で、「私は妊婦なんだから」とマークを示して半ば強引に優先席を譲らせる妊婦さんも存在するようで(私は実際遭遇したことはありませんが)、こういった態度に怒りを感じ、マークや妊婦さんそのものに反感を持つ方もいらっしゃいます。

 しかしながら、妊婦さんにかかわらず、年配の方でも若者でも非常識な行動をする人は一定数存在するわけで、その少ない存在のみをとりあげて全体として語ることには疑問を感じます。

 そもそも、通常の身体状況ではない妊婦さんを守るのは普通のことだと思うので、マークつけられないこと自体もつけられない背景も、本当に淋しく、やりきれない気持ちになります。

 

 さらに、妊婦さんがマークをつけない理由として、不妊治療中の女性への配慮というものもあるようです。

 これも、本来のマークの目的から随分とそれていると思います。

 私の経験では、交通機関内や街中でマークをつけている人を見て悲しい気持ちになったことはありません。妊婦さんに関していえば、流産した時に産婦人科で居合わせた妊婦さんを見て悲しくなったことはありますが、その時だけです。それも、流産した自分と妊婦さんの状態を比べて悲しくなっただけで、その妊婦さんに対して不快感を感じるたり、攻撃的な気持ちを抱いたりということはなかったです。当然ですが。

 助産師をしていたので、マークや妊婦さんに対してマイナス感情がないという面もあるのかもしれませんが、妊婦さんが本来の目的を無視してまで不妊治療中の女性に配慮しなくても・・・と思っています。

 それに、そんなことを配慮していたらきりがないです。

 それぞれ、色んな事情があり、皆一緒ではないのですから。

 不妊治療中の女性への配慮というなら、無神経に「子どもはまだ?」とか「子どもはいいよー」と言う人にはもう少し配慮する気持ちを持ってほしいですけど(笑)。

 

妊娠は病気と紙一重

 「妊娠は病気ではない」という言葉をよく耳にします。

 そして、その言葉とセットになるのが「だから、家事はできて当然」「ゴロゴロしちゃいけない」「仕事も普通にできるでしょ」・・・・など。

 でも、妊娠は病気ではないから、妊娠していない時と同じように動けるといえるでしょうか。

 妊娠すれば、つわり、頭痛、めまい、腰痛、むくみ、便秘、頻尿などなど、色々な身体上のトラブルが起こります。お腹が大きくなれば、一つひとつの動作もゆっくりになります。

 身体の循環血液量も妊娠していない時の1.5倍になり(出産時の出血に備えて)、心臓にも負担がかかります。同時に血栓もできやすい身体になります。

 ですから、私は妊娠は病気に準じた扱いでよいと思っていますし、周囲が配慮する必要がある対象だと思うのです。

 

妊娠・出産・育児は個人の問題?

  マタニティマークの問題もそうですし、マタハラ問題や子どもの貧困などの報道をみると、日本の場合、妊娠して、子どもを産み育てているのはそちらの勝手、好きでしたことなのに、なんで関係ないこちらが配慮しなくちゃいけないのというのが、どの問題にも透けて見えます。

 もちろん、産む・産まないは個人の選択に委ねられるもので、他者がむやみやたらと干渉するものではないでしょう。

 しかし、妊娠・出産・育児を取り巻く環境は、社会全体で支えていくものだと思います。

 産みたい人が産みやすく、子育てしやすい社会にならない限り、少子化は歯止めがきかないでしょうし、妊娠・出産・育児に関する問題もまだまだ噴出するでしょう。

 安倍政権出生率1.8への向上を掲げる一方で、現状で起きている妊娠・出産・育児をめぐる問題をみていると、出生率1.8なんて夢のまた夢だと思いますし、こんな殺伐とした社会でいいのかなとやりきれない気持ちでいっぱいになります。